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離職率を効率的に改善するためのポイント②

では早速、前回申し上げたとおり、離職理由について介護業界全体の傾向を分析してみましょう。

 

資料として用いるのは、介護労働安定センターがまとめている「介護労働実態調査(H28年度)」です。

 

 

同調査の「介護関係の仕事をやめた理由」を上位から並べると

 

  1. 職場の人間関係に問題があったため(23.9%)
  2. 結婚・出産・妊娠・育児のため(20.5%)
  3. 法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため(18.6%)
  4. 他に良い仕事・職場があったため(18.2%)
  5. 自分の将来の見込みが立たなかったため(17.7%)
  6. 収入が少なかったため(16.5%)
  7. 新しい資格を取ったから(12.5%)
  8. 人員整理・勧奨退職・法人解散・事業不振等のため(7.9%)
  9. 自分に向かない仕事だったため(6.1%)
  10. 家族の介護・看護のため(5.1%)
  11. 病気・高齢のため(4.6%)
  12. 家族の転職・転勤、又は事業所の移転のため(4.0%)
  13. 定年・雇用契約の満了のため(2.9%)

 

以上のように続きます。

 

 

改めて眺めてみると、「収入」への不満は、全体からみると上位には位置しますが、6位にとどまっていますね。

その理由として、

  • 介護職員処遇改善加算の額が引き上げられている
  • 介護職を目指す方は、金銭的報酬より重視している要素がある

などが考えられるでしょうか。

 

 

ということで、この調査をベースに離職率対策を検討するならば、金銭的待遇より先に手を付けるべきことがありそうです。

 

優先順位としては、やはり上位の理由から解消していくのが効率的でしょう。

 

 

そう考えると、最初に検討すべきは、自ずと職場の人間関係に定まってきます。

 

具体的に何をすればいいのか迷う場合は、いま一度「職場の人間関係が悪化する原因」を分析してみられるのはいかがでしょうか?

特に、介護事業所のように専門職が集まる組織では、職種間のセクショナリズムが強く、組織としてまとまりを欠くケースを散見します。また、同じ介護職間でも、ユニットケアの普及で一緒に仕事をするメンバーが固定化することにより、各ユニットごとに独自分化が生まれてしまい、組織への帰属意識が低下する傾向もあるようです。

 

そういった「縦割り」に風穴を開け、組織横断的なマインドを醸成するには、腰を据えて教育研修を続けるしかありません。

例えば、毎年の教育訓練計画のうち、一定割合を「組織人として」「社会人として」などのヒューマンスキル系の研修にするのも良いでしょう。

データから見るに、それだけの手間と時間をかける価値はあると思います。

 

 

続いて重要なのは、「結婚・出産・妊娠・育児を理由に辞めないでもいい職場作り」ということになります。

職員が退職するという事は、それまでその職員にかけた教育研修の手間や費用が、5年勤めていれば5年分、10年勤めていれば10年分無駄になるということです。加えて、代替要員の確保にかかる手間とコスト、さらに採用後の教育訓練にかかる手間とコストが必要になります。

そうであれば、勤務時間などの事情と待遇面を十分に話し合い、何らかの形で関係を繋ぎとめておいた上で、環境が許すようになったらフルに頑張ってもらったほうが有益だという考え方もあるかもしれません。

その場合は、「正職員 ⇔ 短時間正職員・非正規職員・パート」など多様な雇用形態の間を行き来できるような複線型の制度づくりを検討されるといいでしょう。

 

 

そして、最後に最も注目していただきたいのが3位~5位の理由です。

 

改めて振り返ると、「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため(18.6%)」「他に良い仕事・職場があったため(18.2%)」「自分の将来の見込みが立たなかったため(17.7%)」となっております。

実は、これらの問題ですが、本質的な課題は共通しています。

 

それは、「期待する職員像」を明確に職員に説明できていない、あるいは説明はしていても共感を得られていないということです。

 

まず、施設の理念や運営のあり方は、通常、経営理念という形で明文化されているはずです。

しかし、経営理念を日常業務に即した表現にすることは難しいので、経営理念を具体化し、期待する職員としてのあり方にまで明確にする必要があります。それができていなければ経営理念は形骸化し、職員にとって、耳障りがいい言葉が並んでいるだけの自分とは関係が薄い概念となってしまいます。

 

そうなってしまうと、施設理念や運営方針に対し職員のコミットを得るのは困難です。

その結果、「本当にこのまま、ここにいていいのだろうか?」と将来への不安感が募ります。

また、関心が「他所の職場」や「他の仕事」に向きやすくもなるでしょう。

 

そういった観点から、これら3位~5位をひとまとめに捉え直せば、「18.6%+18.2%+17.7%=54.5%」と離職理由としてはダントツの1位となり、最も初めに検討すべき事項と言えます。

 

 

では、これら離職理由の3位~5位を課題をまとめて解決するにはどうすればいいのでしょうか?

 

その点は次回の記事で探っていく予定です。

それではお楽しみに。

 

 

記事署名:SPEC Labo 山本慎太郎

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