useful-info

人事考課制度の是非について③

①と②の記事で人事考課制度の本来の目的と機能、さらには人が人を評価する難しさを記しました。
考課者(上司)と被考課者(部下)の価値観(常識)や主観(好き嫌い)を100%客観性に近づける事は難しいですが、全社員を組織自体が持っている価値観や主観に近づける事により、その企業に合った納得性の高い仕組みとして人事考課制度を機能させる事が可能であるのは事実です。
ただ、人であれ、組織であれ価値観や主観に関しては、思いの部分つまり精神的な領域ですので永遠の取り組みとなります。
私などは、永遠の取り組みの結果よりはむしろその過程が重要で、その過程に関係している事自体が組織人として大きなモチベーションにつながり、偏った主観ではなく自分達組織の風土に合った主観、つまり「訓練された主観」を手に入れる事ができると考えます。

人事考課制度のもう一つの難しさは、制度そのものの現実的な不合理さです。
①や②で記した通り、人事考課制度と教育制度を連動させる事が運用の核である事が正しい姿です。これは真実ですが、そうすると人材育成の観点から評価制度を見ると、評価方式は絶対評価であらねばなりません。
つまり、社員個人の成長度合いは他者と比較するのでなく、社員個人の成長度を考課表と見比べて行うのが筋です。
もちろん評価時は、ほとんどの場合絶対評価でスタートするのですが、評価の最終段階では、絶対評価と相反する相対評価で結論をつける事になります。
ここに人事考課制度のもう一つの問題・矛盾があるのです。

人事考課制度は人格を評価するものでなく、また組織内で序列をつけるものでもないのは正しい考え方です。
また、人事考課制度を導入するきっかけは業種業界問わず、「がんばっている社員にはきちんと報いたい」「努力が足らない社員にはそれなりに」が多分にあったと思います。

相対評価では社員の努力結果を考課表で判定するのではく、他者との序列で判定します。
仮に全員がA評価なら全員に報いなければなりませんが、現実的な問題は全員に報いる事ができないのです。
それは報いる(処遇に反映する)方法が賞与や昇級昇格・報酬が主になっているからです。
つまり報酬原資には限りがあり、原資内で処遇を行う為には当然評価結果を原資内で収まるようにバランスをとらなければならない訳です。
この時点で、制度構築当初の目的であった「報いたい」という正論が崩れてしまう事になります。
そして、崩れたままで運用していくと、社員の中で評価に対する不信感が高まり、結果として人事考課制度を導入したために組織風土が悪化する事さえありえます。
これが人事考課制度のもう一つの問題となります。

組織運用の中には様々な問題があり、どの企業もその問題を解決すべきと一所懸命になって努力するわけですが、じつは問題の中には「解決できる問題」と「解決出来ない問題」があります。
人事考課制度の問題は解決できない問題の範疇なのかもしれません。

人事考課制度の導入や運用で悩みがある事業所は是非、当SPEC経営研究所にご相談下さい。

 

 

記事署名:SPEC Labo. 佐藤康弘

ご相談・お問い合わせをお待ちしております。

092-555-2722

平日9:00〜18:00 (休・祝日を除く)

お問い合わせ

メールは24時間受け付けております。

こちらの記事も読まれています。

  • 令和6年度介護事業所経営力強化事業  介護事業所募集中!!令和6年度介護事業所経営力強化事業  介護事業所募集中!! 令和6年度介護事業所経営力強化事業の目的 コンサルタント(社会福祉法人等の財務・管理会計や組織運営、介護事業所の経営等に明るい人物等)を派遣し、経営状態の確認、ヒアリング等を行うなど、分析や改善策の検討をとおして、課題の本質にアプローチし、また、介護業界に共通する課題の傾向を分析し、経営改善の手法を検討、効果的な手法があれば普及を図り、介護業界全体の経営力強化を図ります。 […]
  • 現場レポート③(社会福祉法人はぜの実会様)現場レポート③(社会福祉法人はぜの実会様) 今回も久留米にある社会福祉法人はぜの実会様での取り組みを紹介いたします。   内容は第2回ヒューマンスキル研修(一般職・管理職)で、一般職を3グループ、管理職を1グループの合計4グループという編成で実施しました。最終グループは11月8日に実施した管理職グループで、これをもってヒューマンスキル研修は終了となります。 今後ですが、管理職のみ12月にテク […]
  • 何から手を付ければいいか分からないときに確認すべきポイント「離職率」何から手を付ければいいか分からないときに確認すべきポイント「離職率」 「付加価値率」「損益分岐点売上高」「労働生産性」…   組織の強みや健全性を測定する指標には様々なものがありますが、皆様が重視されるのはどんな指標でしょうか?   組織の価値観はもちろん、業種や業界によっても左右されるでしょうが、殊、介護福祉業界においては、常に「離職率」をチェックしておくことをオススメします。   […]
  • 離職率を効率的に改善するためのポイント②離職率を効率的に改善するためのポイント② では早速、前回申し上げたとおり、離職理由について介護業界全体の傾向を分析してみましょう。   資料として用いるのは、介護労働安定センターがまとめている「介護労働実態調査(H28年度)」です。     同調査の「介護関係の仕事をやめた理由」を上位から並べると   […]
  • 【解説】CareTEX福岡2018 専門セミナー「介護事業所の経営者・施設長必見!人材定着と組織力強化のための職場改善のポイント」の担当講師による解説④【解説】CareTEX福岡2018 専門セミナー「介護事業所の経営者・施設長必見!人材定着と組織力強化のための職場改善のポイント」の担当講師による解説④ ※この記事は、前回の続きです。前回の内容をご覧になっていない方は、是非そちらもご確認ください。   セミナー資料のダウンロードは以下をクリック ⇒(資料1/2) ⇒(資料2/2)     「ヒューマンスキルの内容」   介護事業所の組織活性や向上において、必要な取り組みはヒューマンス […]
  • CareTex福岡2022に経営者向けセミナーに登壇しました。CareTex福岡2022に経営者向けセミナーに登壇しました。 昨年11月2日にマリンメッセ福岡にてCareTex福岡2022が開催され、SPEC経営研究所のチーフコンサルタントの 佐藤が【介護事業の経営改革は職員意識の改革から!「集団」から「組織」へと脱皮させる組織文化と制度づくり】 をテーマに講演を行いました。現在CareTex福岡の公式ホームページにて無料公開されておりますので、興味のある方は 下記のURLより無料会員登録後に […]
PAGE TOP