何から手を付ければいいか分からないときに確認すべきポイント「離職率」
「付加価値率」「損益分岐点売上高」「労働生産性」…
組織の強みや健全性を測定する指標には様々なものがありますが、皆様が重視されるのはどんな指標でしょうか?
組織の価値観はもちろん、業種や業界によっても左右されるでしょうが、殊、介護福祉業界においては、常に「離職率」をチェックしておくことをオススメします。
その理由は、介護福祉業界が「労働集約型産業」だからです。
労働集約型産業とは、生産要素に占める資本の割合が低く、人間の労働力に頼る割合が大きい産業のことを指します。
現在のテクノロジーでは介護福祉サービスが人間抜きで成立することはないので、介護福祉は典型的な労働集約型産業といえます。
では、なぜ労働集約型産業では、「離職率」の重要性が増すのでしょうか?
それは、労働集約型産業では「人間の労働力に頼る割合が大きい」ので、職員のレベルが、そのまま自事業所のレベルに直結するからです。
高離職率の事業所は「誰でもいいから」採用せざるを得まぜんが、低離職率の事業所は「自事業所の要求水準をクリアした人物」を選択する余裕が生まれますので、離職率の問題を解消しなければ、両者のギャップは拡大を続けることになります。
あるいは「負のスパイラル」を分解し、スパイラルを逆転させるにはどこから手を付けるべきか検討しても、離職率の重要性を理解することができます。
「負のスパイラル」
①高い離職率
→②人材不足
→③過大な業務負荷
→④サービスの質の低下
→⑤売上の減少
→⑥低水準の職員待遇
→⑦採用競争力の低下
この流れに歯止めをかけるには、どこから着手すべきでしょうか?
まず②から検討してみましょう。
②を解消する基本的な手段は「採用」です。
しかし、離職率低下を置き去りにした採用活動は、穴が空いたバケツに水を組み続けるようなもので、以下の3つの理由により根治療法には繋がりません。
- 採用した職員に一定水準以上の能力がなければ、③過大な業務負荷の軽減どころか、むしろ、さらなる負担になってしまう。
- 採用した職員の能力が乏しくても、教育することで中長期的には②人材不足の解消を見込めるが、そもそもそのための教育機会を確保する余裕がない。
- 運良く優秀な人材を採用できたとしても、負のスパイラルの場面では、優秀な人材ほどよりよい環境を求めて退職する傾向にあり定着が難しい。
次に④を検討してみましょう。
④サービスの質の低下ですが、前述のとおり労働集約型産業におけるサービスレベルは人材レベルと同義なので、その向上を図る教育研修は極めて重要であり、毎年予算を組んで質の高い教育の機会を提供すべきです。
しかし、負のスパイラルの場面で、教育研修の目的をサービス向上に設定するのは疑問が残ります。なぜならば、いくら研修をしても、研修を受けた職員に職場に定着しなければ意味がないからです。
したがって教育研修を行うならば、まず、離職率の低下に資するような「ロイヤリティ(帰属意識)」や「組織人としてのヒューマンスキル」などをテーマに設定するのがいいでしょう。
次に⑤⑥ですが、ある程度の財務的余力があれば、この段階からの取り組みはあり得ると思います。
しかし、そもそも負のスパイラルに陥っているけども財務的余裕はあるという状況が稀でしょう。
最後に⑦ですが、負のスパイラルにあって、採用の目的とは②人材不足の解消です。
介護福祉事業には人員基準が定められているので、採用努力が必要なのは間違いないのですが、②で検討した理由から、この場面での採用はあくまで対処療法の域を出ず、スパイラル逆転の決め手(根治療法)にはなりません。
冷静に考えると、「離職率」が重要なのは介護福祉業界に限った話ではないのですが、繰り返しになりますが労働集約型産業である介護福祉ではその傾向が特に顕著だということです。
できれば、毎月の確認する財務諸表と同じレベルで「離職率」にも気を払っていただき、水準が低い、あるいは低下傾向が見られるようならば、速やかな分析と対策を検討されてみてください。
それでは次回は、「離職率を効率的に改善するためのポイント」について考察してみます。
記事署名:山本慎太郎